式辞
新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。
本日のこの佳き日に,皆さんを日本大学通信教育部にお迎えできますことを,教職員一同,心よりうれしく思っております。新たな学びの第一歩を踏み出された皆さんを,心から歓迎いたします。
皆さんが入学される日本大学は,明治22年(1889年)に創立された日本法律学校を前身とし,135年を超える長い歴史と伝統を有する,日本最大規模の総合大学です。本学は,「自ら学び」,「自ら考え」,「自ら道をひらく」を柱とする「自主創造」を教育理念として掲げています。これは,単に知識を修得するだけでなく,自ら課題を見いだし,自ら考え,主体的に未来を切り拓いていく姿勢を重んじるものであり,本学で学ぶすべての学生に共有されるべき根本の精神であります。
私たちが生きる社会は,いま大きな変化のうねりの中にあります。環境問題,地政学的緊張,通商環境の変化などを背景として,世界はかつてない速度で動いています。実際,IMFや世界銀行も,2026年の世界経済を見通すうえで,地政学的緊張や政策不確実性,貿易摩擦の高まりを重要なリスクとして指摘しています。また,生成AIに代表されるデジタル技術は急速な進化を遂げ,サイバー空間とフィジカル空間が融合する社会は,もはや私たちの日常そのものとなりつつあります。こうした時代には,さまざまな情報や,もっともらしい「答え」が,以前にも増して容易に手に入るようになります。しかし,本当に大切なのは,それらの情報や答えを受け取ることにとどまらず,自ら問いを立て,情報を吟味し,自分の頭で考え抜くことです。何が正しいのか,何が本質なのか,そして何をなすべきかを自ら問い続ける力こそが,これからの社会を生きるうえで,ますます重要になります。
情報化社会が高度に進む時代だからこそ,本学の教育理念である「自主創造」の精神はいっそう重みを増しているのであります。とりわけ,仕事や家庭,地域社会における責任を担いながら学ぶ通信教育部の学生にとって,この精神は,まさに日々の学修を支える羅針盤であり,皆さんの歩みを確かなものとする拠り所でもあります。
さて,本学通信教育部は,昭和23年,我が国で最も早い時期に設置認可を受けた通信制大学の一つとして発足いたしました。そして今年で創設78年を迎えます。法学部,文理学部,経済学部,商学部の4学部8学科・専攻を擁し,全国各地はもとより,海外からも,多様な背景を持つ多くの学生を迎え入れてまいりました。これまでに数多くの卒業生を社会に送り出し,学位の取得にとどまらず,資格取得,教養の深化,人生の再出発,さらには自己実現を支える「開かれた学びの場」として,その役割を果たしてまいりました。
通信教育の意義は,時間や場所の制約を超えて,自らの意思で学びを継続しうる点にあります。働きながら学ぶ方,子育てや介護と両立しながら学ぶ方,あるいは一度社会に出たのち,あらためて知の世界に向き合おうとする方もおられることでしょう。そのような中で,皆さんが今日この入学の日を迎えられたこと自体が,すでに大きな志のあらわれであります。その挑戦に対し,私は心から敬意を表したいと思います。
本学通信教育部では,その志を具体的な成果へと結びつけていくために,多様な目的に応じたカリキュラムを整えております。通信授業,スクーリング,メディア授業,Sメディアなどを柔軟に組み合わせることにより,それぞれの生活や学びの目的に応じた学修を進めることができます。また,履修や学修を支援するためのサポート体制も整えております。東京・市ヶ谷の独自キャンパスには,自習室や学生ラウンジも備えられており,学びを支える環境の充実にも努めております。通信教育は,ともすれば孤独な学びと思われがちです。しかし本学には,学び続ける皆さんを支える仕組みがあり,ともに励まし合う仲間とのつながりがあります。どうか,それらを積極的に活用しつつ,着実に学びを深め,自らの目標の実現へとつなげていただきたいと思います。
ここで,通信教育の歴史を語るうえで,きわめて象徴的な人物の一人として,ネルソン・マンデラ氏に触れたいと思います。南アフリカの元大統領であり,ノーベル平和賞受賞者でもあるマンデラ氏は,反アパルトヘイト運動によって二十七年に及ぶ獄中生活を強いられるなかでも,学ぶことを決して手放しませんでした。獄中では通信教育を通じて法学の研鑽を重ね,1989年には南アフリカ大学において法学士号を取得しています。その歩みは,いかに困難な状況にあっても,学び続けることが人間の尊厳を支え,やがて社会を変える力となりうることを,力強く示しています。
――教育は,世界を変えるために用いることができる最強の武器である――
このマンデラ氏の言葉は,まさに逆境のなかにあってこそ,学びの価値がひときわ輝くことを教えています。マンデラ氏の歩みは,通信教育が人を育て,時代を動かす力を持つことを,私たちに深く示しているのであります。
新入生の皆さん,これからの学びの道のりは,決して平坦なものではないかもしれません。忙しさに追われる日もあれば,思うように進まず,立ち止まりたくなる時もあるでしょう。しかし,その一歩一歩は,皆さん自身を確実に鍛え,視野を広げ,思索を深めていくはずです。学ぶことは,単に知識を増やすことではありません。自分自身をつくり直し,社会を見る眼を養い,未来を切り拓く力を育む営みであります。
どうか本学での学びを通じて,多くの知識と教養を身につけるとともに,多様な他者と出会い,視野を広げ,自分ならではの問いと志を育んでください。そして,自らの歩みの中で,「自主創造」の精神をそれぞれの人生において実践していただきたいと思います。
皆さんの前途に大きな実りがあることを心より祈念し,式辞といたします。
令和8年4月8日
日本大学通信教育部長
日本大学大学院総合社会情報研究科長
博士(経済学) 陸 亦群





