式辞
通信教育部で学ばれた法学部,文理学部,経済学部,商学部の卒業生の皆様,ならびに大学院総合社会情報研究科の修了生の皆様,本日はご卒業・ご修了,誠におめでとうございます。本日ここに,皆様が学士・修士・博士の学位を授与され,新たな門出の日を迎えられましたことを,心よりお祝い申し上げます。
本日,令和七年度の卒業式・修了式をこのように挙行できますことは,私たち教職員にとりましても,大きな喜びであります。さまざまな環境の中で学修を重ね,努力を積み重ねてこられた学部卒業生556名,大学院修士課程修了生40名,博士学位取得者7名,あわせて603名の皆様が,今日この日を迎えられました。四年間の学びを経て卒業された方,大学院を最短年限で修了された方,あるいは仕事や家庭と両立しながら,長い年月をかけて学びと研究を続けてこられた方もおられます。年齢,職業,地域,生活環境の違いを超えて共に学ぶ皆様の姿は,まさに「開かれた大学」としての通信教育部と大学院の精神を体現するものであります。
通信教育で学ぶということは,決して容易な道ではありません。限られた時間をやりくりしながら学問への意欲を保ち続けることは,並大抵のことではなかったはずです。仕事の多忙,家庭の事情,あるいは健康上の制約など,思うように学修が進まない時期もあったことでしょう。それでも皆様は歩みを止めることなく努力を重ね,今日という日を迎えられました。その粘り強い努力と志に,心から敬意を表します。
同時に,皆様を陰で支えてくださったご家族,職場の同僚,そして共に励まし合ってきた仲間の方々にも,この場をお借りして心より感謝を申し上げます。通信教育の学びは,一見すると孤独な営みに見えるかもしれません。しかし実際には,多くの支えの中で成り立つ学びでもあります。ご家族の理解や同僚・友人の励まし,そしてスクーリングや大学院ゼミを通じて得た仲間との出会いと絆が,今日の皆様を支えてきました。どうか,この節目に,これまで支えてくださった方々へ改めて感謝の言葉をお伝えいただき,この卒業・修了の喜びを共に分かち合っていただければ幸いです。
さて,本日卒業・修了を迎えられた皆様は,新型コロナウイルス感染症の拡大とその収束過程という,社会の大きな混乱と不確実性の時代を経験しながら学びを続けてこられました。さらに,皆様が本学に在籍していたこの数年間は,ChatGPTやGeminiに代表される生成AIが急速に普及し,現実のフィジカル空間と仮想のサイバー空間とが高度に融合する,いわゆる「Society5.0」と呼ばれる社会が現実のものとなりつつある時代でもありました。
すでに私たちの日常生活は,情報収集,コミュニケーション,エンターテインメント,買い物,そして仕事に至るまで,さまざまな場面でサイバー空間と深く結びついています。さらにSNSやAI技術は,政治活動,経済システム,さらには選挙に代表される民主的制度にも影響を及ぼすようになりました。日々進化するデジタル技術は,皆様の生活や仕事を支える大きな力となるでしょう。そしてソーシャルメディアにあふれる情報やAIは,しばしばもっともらしい「答え」を提示してくれることでしょう。
しかしながら,さまざまな情報が瞬時に手に入る時代には,別の難しさも生まれています。自分の関心に近い情報ばかりが選択的に届けられたり,自分と似た考えをもつ人々の情報だけを受け取ったりすることで,知らず知らずのうちに視野が狭められてしまう危険もあります。いわゆる「確証バイアス」によって,異なる意見や立場に対して拒絶的になってしまう可能性も指摘されています。
だからこそ重要なのは,情報をどのように解釈し,何のために用いるのかを自ら考える姿勢です。自ら問いを立て,仮説を構築し,検証を行い,時には視点を変えて考え直しながら,自分なりの答えを見いだしていく。そのような主体的な思考と探究こそが,学問の本質であり,皆様が本学で培ってきた力でもあります。
情報やAIが提示する答えを,受け身のまま受け取るだけでは,自分の人生を切り拓くことはできません。情報があふれる時代において,真に求められるのは「答えを受け取る力」ではなく,「問いを立てる力」であります。情報化社会が高度に進む時代だからこそ,日本大学の教育理念である「自主創造」の精神が,いま改めて求められているのであります。
この卒業式・修了式という節目にあたり,通信教育部および大学院総合社会情報研究科の歩みと,日本大学の建学の精神である「自主創造」について,少し触れておきたいと思います。
本学通信教育部は,戦後まもない昭和23年,すなわち西暦1948年に創設されました。創設当初より「社会に開かれた大学」を理念に掲げ,働きながら学ぶ人々や子育て世代を含め,誰もが学ぶ機会を得られるよう編入学制度を整備してきました。それから77年,現在の在学生はおよそ7,200人,卒業生は38,000人を超え,全国各地で活躍されています。
また,本学大学院総合社会情報研究科は,1999年,日本で初めての通信制大学院として設立されました。通信教育部が長年培ってきた教育の蓄積を礎に,情報メディアを活用した新たな学びの形を切り拓いてまいりました。設立以来,博士学位取得者は115名,修士課程修了生は1,680名を数えます。2019年には通信教育部と事務統合を行い,現在では市ヶ谷の拠点を中心に,ICTを活用した先進的な教育研究活動を展開しております。
このように,通信教育部ならびに大学院総合社会情報研究科は,多様な背景を持つ人々が人生の新たな挑戦に踏み出す場として歩み続けてきました。そして,その歩みを一貫して支えてきた理念こそが,日本大学の建学の精神である「自主創造」であります。
この「自主創造」という言葉は,本学の学祖・山田顕義先生の理念に由来します。山田先生は明治初期,岩倉使節団の一員として欧米諸国を歴訪し,教育と法制度の重要性を深く認識されました。そして帰国後,日本の実情に即した新しい学問を築くため,日本法律学校,すなわち現在の日本大学を創設されました。そこには,「自ら課題を見いだし,自ら考え,自ら解決へと導く」という学問と実践の精神が込められています。これはまさに,通信教育部ならびに大学院総合社会情報研究科で学び続けてこられた皆様が歩んできた道そのものでもあります。
本日の卒業・修了は,皆様にとって新たな人生の出発点であると同時に,日本大学との新しい絆の始まりでもあります。ここで培った知識は,単なる情報の蓄積ではありません。本学での学びを通して育まれた知性と経験は,社会の変化を見つめ,課題を発見し,他者と協働しながら新しい価値を生み出していく力として,皆様の生涯の財産となるはずです。どうかこれからも,「学んだことをどのように社会に活かすか」という視点を持ち続けてください。そして日々の実践を通して,「自主創造」の精神を未来へとつないでいっていただきたいと思います。
最後に,皆様へのはなむけとして,幕末の思想家・吉田松陰の言葉を紹介いたします。
――夢なき者に理想なし。理想なき者に計画なし。計画なき者に実行なし。実行なき者に成功なし。ゆえに夢なき者に成功なし。――
この言葉のとおり,夢を抱き,理想を描き,その理想を行動へと移すことこそが,人生を切り拓く力となります。皆様がこれまで培ってこられた学びと努力は,その夢を現実へと変えていく確かな礎となることでしょう。どうか学び続ける姿勢を忘れず,自らの志を高く掲げ,それぞれの人生の舞台で堂々と羽ばたいてください。
皆様のこれからの人生が,知恵と情熱に満ちた,実り多き歩みとなりますことを心より祈念いたします。
卒業生・修了生の皆様の前途に幸多かれと願い,これをもちまして私の式辞といたします。
令和8年3月25日
日本大学通信教育部長
日本大学大学院総合社会情報研究科長
博士(経済学) 陸 亦群






